情報処理安全確保支援士 - SE娘の剣 -

左門至峰による情報処理安全確保支援士試験に合格するためのサイトです。 過去問を引用しながら、試験に出る基礎知識を体系的かつ詳細に整理します。

電子メールのセキュリティ対策

1.電子メールのセキュリティ対策の全体像

完全にきれいに整理できるものではないが、大枠としては以下と考えてもらってよい。

項番 脅威 対策
1 盗聴、改ざん TLSによる通信、S/MIMEやPGP
2 SPAM攻撃 OP25B、スパム対策機器
3 踏み台 オープンリレー防止
4 なりすまし、フィッシング 送信ドメイン認証

2.メールサーバの構成

2.1 メールサーバの構成とメールの経路

こちらに記載

2.2 内部メールサーバと外部メールサーバを分ける理由
Q.内部メールサーバと外部メールサーバを分ける理由を、セキュリティの観点で述べよ。





●Answer
外部からのメールを受信する必要があるので、DMZに設置する外部メールサーバは必須である(図の①)。
このとき、外部メールサーバしかないと、自社に送られたメールがDMZ(外部)に保存される。つまり、攻撃されるリスクがある。そこで、内部メールサーバを設置し、送られてきたメールを内部に保存するのである(図の②)。
また、社内間のメールは機密メールが多いと思う。それらの通信は内部メールサーバだけで完結できる。不用意に外部を経由しないことにより、メールの機密性を高めるメリットもある(図の③)。
内部メールサーバと外部メールサーバを分ける理由_情報セキュリティスペシャリスト試験

3.メールの暗号化プロトコル

メールは大きく分けて2つの経路を通ってやり取りされます。それぞれの経路で異なるプロトコルが使われます。

(1)端末(ユーザー)とメールサーバ間

ユーザーのメールソフト(OutlookやThunderbirdなど)とメールサーバが通信します。
ここでは「送信」と「受信」で別のプロトコルが使われます。

区分 プロトコル ポート番号 説明 暗号化プロトコル
送信 SMTP 25 メール送信のプロトコル。ユーザー認証なしでの送信 SMTPS(465)
送信 SMTP-AUTH 587 ユーザー認証ありでの送信 STARTTLS
受信 POP3 110 メールをサーバから端末にダウンロードするプロトコル POP3S(995)
受信 IMAP 143 サーバ上でメールを閲覧・管理するプロトコル IMAPS(993)

※「SMTP-AUTH(587)+STARTTSL」と、SMTPS(465)では、「SMTP-AUTH(587)+STARTTSL」が推奨されます。
※STARTTLSの特徴は,SMTP over SSL(465)やPOP3 over SSL(995)と違って,ポート番号に従来のSMTP(25)やPOP3(110)をそのまま利用できることです。そして,通信相手と暗号化通信ができると確認した上で,ポート番号を変えずに暗号化通信を行います。仮に,相手がSTARTTLS に対応していなければ,通常
のSMTPやPOP3 で通信を行います。

Q.インターネットとの間はSMTPをTLSで暗号化する[ c ]を使用してメールを転送することができる。(R6秋PM2設問2)




A.SMTPS
ちなみに、S/MIMEという解答も多かったようである。

(2)メールサーバ間(送信側と受信側)

・SMTP(25番)が使われます。サーバ間通信で STARTTLS をサポートしているため、結果的に 大半はTLS通信になっている。※TLS通信でもポート番号は25のまま。
・587や465は使わない。

(3)その他

・APOP(Authenticated Post Office Protocol)

利用者が電子メールを受信する際の認証情報を秘匿できるように、パスワードからハッシュ値を計算して、その値で利用者認証を行う仕組みは何か。(H23SC春午前2問5)

正解はAPOPです。このプロトコルは認証時のセキュリティ対策のみです。メールそのものは暗号化しない。
今ではあまり考えられないのですが、POP3は、パスワードが平文(「ひらぶん」と読む。暗号化されていないという意味)で流れる。
だったらパケットキャプチャしたら、パスワードがばればれ。
※以下はPOP3のパケットをキャプチャーした。パスワードが「passwd」であることが分かる。
pop

4.MTA (Mail Transfer Agent)とMUA

情報処理安全確保支援士試験の過去問をみてみましょう。

過去問(H23SC春PMⅡ問1設問1)
〔 a 〕〔 c 〕〔 d 〕に入れる適切な字句を解答群の中から選び,記号で答えよ。

(2)社内メールサーバでのメールボックス保存
P社ドメイン名あてのメールは,メールボックス保存プログラムである[ b ]によって,従業員用メールアドレス又はサーバ管理用メールアドレスごとのメールボックスに保存される。
(3)PCでのメール送受信
・メール送信
次の二つのどちらかを使用可能であるが,p社のPCでは(a)を使用している。
(a) PCの〔 c 〕は,SMTPで25番ポートを使用し,社内メールサーバの〔 a 〕にメールを送信する。
(b) PCの〔 c 〕はSMTPで587番ポートを使用し,社内メールサーバの〔 d 〕にメールを送信し,〔 d 〕は,〔 a 〕にメールを転送する。
・メール受信
PCの〔 c 〕は,P0P3を使用し,社内メールサーバのMRA (Mail Retrieval Agent)と通信し,従業員用メールアドレス又はサーバ管理用メールアドレスのメールボックスからメールを取り出す。
MRAのメール取り出し中に,ウイルス対策ソフトのウイルススキャン(以下,P0P3スキャンという)を行うことも可能である。POP3スキャンでウイルスを検知した場合,メール本文をウイルス検知通知に置き換える。しかし,PCのウイルス対策ソフトに同等機能があるのでPOP3スキャンを使用していない。

解答群
(ア) MDA(Mail Delivery Agent) (イ)MSA(Mail Submission Agent)
(ウ) MTA (Mail Transfer Agent) (エ)MUA(Mail User Agent)

セキュリティというより、用語の問題でした。





答えは以下
a ウ b ア c エ d イ

整理しましょう。
(a) PCのMUA(Mail User Agent)は、SMTPで25番ポートを使用し、社内メールサーバのMTA (Mail Transfer Agent)にメールを送信する。
(b) PCのMUA(Mail User Agent)はSMTPで587番ポートを使用し、社内メールサーバのMSA(Mail Submission Agent)にメールを送信し、MSA(Mail Submission Agent)は、MTA (Mail Transfer Agent)にメールを転送する。

①MUA(Mail User Agent)
PCのメールソフトです。Outlookであったり、Thunderbirdと思えばいいでしょう。

②MTA (Mail Transfer Agent)
メールサーバと考えていいでしょう。SMTPによるメール通信をします。別の過去問(H29春SC午後Ⅱ問2)では、「メールの転送を行うMTAプログラム」とあります。

③MSA(Mail Submission Agent)
SMTP-AUTHなどで認証するときなどに利用されます。この場合、問題文にあるように、PC(MUA)⇒MSA⇒MTAという流れでメールが転送されます。ただ、MSAとMTAは同じ筐体のメールサーバです。

④MDA(Mail Delivery Agent)
問題文に「メールボックス保存プログラムであるMDAによって,従業員用メールアドレス又はサーバ管理用メールアドレスごとのメールボックスに保存される。」とあるように、メール保存のプログラムです。別の過去問(H29春SC午後Ⅱ問2)では、メールをメールボックスに格納するMDAプログラム」とあります。
LinuxでいうDovecotのプログラムと考えるとなるほどと思う人もいるでしょう。

通常、MSA,MTA、MDAは一つのメールサーバで提供されます。

同様の問題は、H29春SC午後Ⅱ問2でも問われています。このときも、MDAとMTAが問われました。

5.オープンリレーの防止

企業のメールサーバが、SPAMメールの踏み台にされることがあります。攻撃者は、送信元をわからなくするために、踏み台となるメールサーバを中継させます。そもそも、メールサーバは、他社から他社へのメールを転送する必要はありません。しかし、誤ってそれを可能にしてしまっている場合があります。誰もが(オープンに)メールを中継(リレー)できるという意味で、この状態を「オープンリレー」と言います。

(1)踏み台の仕組み

攻撃者によってA社のメールサーバが踏み台にされる様子を以下の図で解説します。

❶攻撃者は、A社のメールサーバ宛てに、A社以外を宛先としたメールを送ります。(送信元メールアドレスは、偽装が簡単なので、偽装されている可能性があります。)
❷メールを受け取ったメールサーバは、正しい宛先にメールを転送します。
こうして、攻撃者が送信したメールが、善意のサーバを踏み台にして、相手に届きます。
 さて、このような送信元偽装の通信ですが、FWで拒否することはできません。インターネットからメール中継サーバへのTCP/25のアクセスも、メール中継サーバからインターネットヘのTCP/25のアクセスも,W社メールを利用するのに必要なルールだからです。

(2)対策

情報処理安全確保支援士試験の過去問(H29春SC午後Ⅱ問2)には「外部メールサーバの転送機能の設定を表3に示す。この設定によって、オープンリレーが防止されている。」とあります。
https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/s/seeeko/20200818/20200818044004.png

(3)過去問

❶H29春SC午後Ⅱ問2(上記の過去問)

空欄cに入る言葉を答えよ。






解答例:空欄c:内部メールサーバ
それぞれの項番を簡単に解説します。
・項番1
外部からA社に届くメールを表しています。よって、【 c:内部メールサーバ 】に転送します。
・項番2
社内から外部にメールを送る設定を意味しています。たとえば、宛先メールアドレスのドメインがb-sha.co.jpであれば、このドメインのメールサーバにメールを転送します。
まず、MXレコードを問い合わせ、メールサーバのFQDNを調べます。仮にmx.b-sha.co.jpという結果が返って来たら、次はこのFQDNのAレコードを問い合わせ、転送先のメールサーバのIPアドレスを調査します。
・項番3
この設定によって、第三者による不正なメールを中継を防ぎます。これは、外部ドメインから外部ドメイン宛のメールです。

❷(H25春SC午後Ⅱ問2)

オープンリレー対策では,SMTPの転送元又は送信元と,エンベロープの受信者ドメイン名の組合せで,転送と送信の許可又は拒否を判定する。
a
せっかくなので、cに当てはまる字句を答えましょう。






解答例:空欄c:内部メールサーバ
※エンベローブの解説はこちらです。

❸R6秋午後Ⅱ



設問1(1)空欄aを答えよ
設問1(2)空欄bを答えよ





解答例:空欄a:A社ドメイン
空欄b:全て

6.電子メールの運用面のセキュリティ対策

ここまでは、比較的技術的なセキュリティ対策の問題を出題してきた。
ここでは、「運用面」の対策を考えよう。
過去問にて、メールに関するセキュリティ要件が掲載されている。

メールに関するセキュリティ要件(H20SU午後Ⅱ問1より引用)
・スパムと判断されたメールは、できるだけ管理負荷の少ない方法で削除する。
・社外から社内、又は社内から社外へのメールでは、特定の拡張子が付いた添付ファイルを削除する。
・添付ファイルのウイルス検査を行う。
・添付ファイルがパスワード付きファイル又は暗号化ファイルの場合は、内容を確認できないので、そのまま転送する。
・PCのウイルス対策ソフトとゲートウェイ型のウイルス対策ソフトを導入する。二つの製造元は別にする。
  図4 メールに関するセキュリティ要件